“本物”ではない森永さんの暴論

Posted on 5月 30th, 2008 by SEEBRA.
Categories: Sciety.

マスメディアにもよく登場するのでお茶の間でも有名であろう、経済アナリストの森永卓郎さんが、日経BPnet上のコラムでおかしな提言を披露している。

以前からこの人はプライマリーバランスなどについて奇妙な解釈を展開するので、グローバルエコノミーを語るには向いていないと管理人は一歩引いて見ていたのだが、どうやら時には全面的に思慮が欠落してしまうようである。それほどまでに今回のコラムの内容はひどい。


構造改革をどう生きるか
~成果主義・拝金思想を疑え!~

第134回
医療費のコスト削減策はこんなにある



管理人は元々現在の医療費削減政策にはほぼ全面的に反対である。
しかし、そんな削減策が“こんなに”ある、というので興味を引かれて見てみたら具体的なアイディアは2つだけ。しかもいずれも酒の席での思いつきかと疑われるようなトンデモ論ではないか。
こんな内容の文章を掲載する日経BP側の判断も疑わざるをえず、これでは単なるヘッドライン・ベイト(わざと注目を引く見出しをつけてクリックを誘引する手法)にも等しく、天下の日経もそこいらの三流ゴシップメディアと同列に堕ちたということなのか。他の連載を寄稿しているコラムニストにとってもいい迷惑であろう。

以下、管理人は医療従事者ではないので、専門的な反論は記事本文へのコメントやトラックバックに譲りつつも、それでも突っ込まざるをえない部分について抜粋し、いくつか挙げてみる。(茶色字がコラム本文からの引用)


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 しかし、冷静になって考えてみると、これだけ毎年医療費が増えているにもかかわらず、医療の内容がよくなっていないのは不思議である。確かに先端医療の技術は進歩しているのかもしれないが、ごく一般の診療を見る限り、病院はどこも大混雑。さんざん待たされたあげく、5分しか診てもらえないというのが実情である。

 支払いは増えているのにサービスが低下している。これはどう考えても納得できない。医療費増大の原因は本当に高齢化だけが原因なのか。医療のコスト構造自体も、じっくりと検討すべきときに来ているのではないだろうか。

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ここがまず、どうしようもなく決定的におかしい。
どうも国の総医療費と受診あたりの診療費を混同して考えているようにしか読めないが、もしそうであれば経済学者としてはありえない誤解で、理論構築の根本がそもそも狂っていることになる。

医療設備や人員の総量は横ばい(もしくは減少)なのに、受診者の総数は年を追うごとに増加し続けているのだから、サービスの質は落ちることはあっても良くなるわけがない。
本来はもっと悪化しているところを、現場の医療者達による心身を削るような努力によってなんとか維持しているのが実状だろう。
そもそも「医師の数を増やさなければいけない」という点は認識しているのに、こういった論旨には自己矛盾を感じないのだろうか。
大混雑しているからこそ医師は最大限の効率で的確な診断を下す努力をするはずである。大出血や激痛を訴える患者を5分しか診なかったらそれは問題だろうが、森永さんは医者が適当にサボりながら休み休み診療しているとでも思っているのではないか。



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供給が増えれば値段が下がるのは必然であり、
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ほぼ全員がそんなことは分かっているが、そのほぼ全員から「日本の医療は市場経済ではなく統制経済である」と突っ込まれている。



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例えば、こうしてみたらどうだろうか。建築士と同じように、医師の資格も1級と2級に分けて仕事を分担するのである。

 確かに、先端医療の場合には、高度な知識や技術が必要なことはわかる。しかし、中高年やお年寄りに多い慢性疾患の場合は、さほど高度な医療判断が必要だとは思えない。極端なことを言えば、医者は話の聞き役にまわればよく、出す答えもほぼ決まりきったもののことが多い。もし、手に負えない症状であったり、急性疾患の疑いがあれば大病院にまわせばいい。

 そこで重要になってくるのは、先端医療技術よりもコミュニケーション能力である。そうした技能の優れた人を養成して、2級医師にするわけだ。2級医師は4年制で卒業可能として、とりあえず大量に育成する。

 最近の若者には、福祉の分野で働きたいという意欲を持つ人が多いから、人は集まるだろう。病院が彼らを年収300万円ほどで雇えば、若年層の失業対策にもなる。

 病院としても、そうした2級医師を採用して「早い、安い」を売り物にすれば人気が出るだろう。高齢者にとっては、待ち時間が減って、話をじっくり聞いてくれるので喜ばしい。こうした医療機関が普及すれば全体の医療費を下げられる。みんなハッピーになるのではないか。

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確かに、キャリアパスの一つとして2級医師という考え方自体は検討できるかも知れない。まあ聞こえが悪いので准医師といったところだろうか。看護師の次のステップとしてマージするといったことも考えられるだろう。
しかし、ここで森永さんの頭の中にあるイメージはどうもちょっと違うようだ。
「とりあえず大量に育成」「年収300万」「失業対策」「早い、安い」といった言葉からは、放っておいたらニートになってしまうような若い連中を、とりあえず大学に送り込んで4年間勉強させ、准医師として世に送り出そうという意図に感じられる。
しかしこれではまるでいわゆる“でもしか教師”ならぬ“でもしか准医師”ではないか。
そして、不定愁訴のようなお年寄りなどはそんな彼らに適当にあしらわせておけば皆がハッピーだと考えているようだが、そんな構図になんのゆがみも感じないようでは、そちらの方が何かおかしいと言わざるを得ない。
あなたこそ“2級”アナリストとしてやり直してみてはどうか、と嫌味の一つも言われても仕方がないだろう。



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医師の数を増やすもう一つの裏技がある。これは、ある医療経済学者の主張なのだが、歯科医に医療活動をさせるというものだ。

 現在、医師と比べて歯科医は数が余っているのが実情だ。一部には夜逃げをする歯科医まであると聞く。

 これを医師に転換するというアイデアである。歯科医は大学で6年間勉強しているから、医療についての知識は当然持ち合わせている。少なくとも、一般の医療活動ならば十分にできる。

 なかでも麻酔ならばお手のものだ。病院での麻酔医の不足が大きな問題となっているなか、日常的に麻酔を使っている歯科医は貴重な存在である。麻酔医を増やすためのコストがほとんどかからないので、確実に医療費の削減につながる。

 そして言うまでもなく、歯科医も消毒はするし手術もする。やっていることは医師と同じなのだ。耳鼻科医が医師であるのは、頭に近いデリケートな部分にかかわる医療をするからだろう。ならば、歯科医も医師であって悪いことはどこにもない。いますぐ、歯医者も医者をしていいという法律を定めれば、医師不足や医療コストの問題は解決するのだ。

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そもそも医療崩壊危機のような重大な事案を“裏技”で解決しようとしないで欲しいが、医療部外者である管理人にでさえ、歯科医が麻酔科医を簡単に兼任できるはずがないと直感で分かる。
全身麻酔を必要とするような手術において、術前、術中、術後と患者に張り付き、一時的に命を預かる麻酔科医が、ミスなく正確にこなさなければならないタスクとともに背負い込む責任感といったら医療部外者の想像を絶するものであると思う。だからこそ一つの独立したスペシャリティーとして確立されているのだろう。
他の方のブログにも書かれていたが、これは明らかに歯科医、麻酔科医の双方に対して、全く何の敬意も抱いていないことを表す発言だ。
ただでさえ麻酔科医の現場離脱は医療崩壊問題の中の大きな課題の一つであるのに、医療部外者にこう軽く言い放たれては、苦渋の決断で常勤を離れられた方、同じく苦渋の判断で常勤に残られた方、どちらに対してもひどい冒涜となってしまう。

しかも最後には、「歯医者が医者になれば、それで医師不足や医療コストの問題は解決する」とまで言い切っている。
つまり歯科医は麻酔科に限らず、小児科でも産科でも放射線科でも救急救命でも何でも兼任できると述べているわけだ。
暴論にもほどがある。



まとめとして、
仮にも何某かの執筆料をもらって書く以上、書く側も、その文章を広告と併せて掲載するメディア側も、対価を得るからには少なからずプロの仕事が求められるはずである。

アイディアを出すことは、それ自体はどんな突拍子もないことであってもまずは悪いことではない。
そしていわゆる悪徳医師や悪徳クリニックなどの存在や、利権者同士の癒着といったことも全くゼロではないことも理解する。
しかし、「~と聞く」とか、「少なくない」などといった本来アナリストが使うのを嫌うような曖昧な言葉を使用しながら、明確なデータやエビデンスを何も示さず、スライドやチャートの一つすらも出てこないまま展開され強引に完結する今回の提言は、何をどう勘案してもプロの仕事とは思えない。
また、今回のそんな原稿は公開前にレビューされることはなかったのだろうか。日経は「日経メディカル」という医療関係者向けのメディアも所有しているのに、読者としては残念だ。
今回のコラムについては是非、訂正文かエビデンスに基づいた“ロジカルな”反論の再掲載を望みたい。

そして、森永さんや編集者には一日でも、いや半日でもよいので、産科や救急救命病棟、緩和ケア病棟などで実地体験をしてみていただきたいと思う。

こうしている間にも、患者、医療者ともに心を震わせながら命と懸命に向き合っている医療現場が24時間休みなしにあることを、管理人含め我々医療部外者は忘れるべきではないはずだ。


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誰も寝てはならぬ - ポール・ポッツの奇跡

Posted on 5月 27th, 2008 by SEEBRA.
Categories: etc, Music, TV.

ちょっと感動的な動画を。といってもネタ自体は結構前のことですが。
すでに知っているという方はスルーしてください。


この動画の主人公、ポール・ポッツはイギリス人。
仕事は携帯電話のセールスマン。(※1)
30代半ばにして早くも中年太り全開の体形に、どうにも冴えない下ぶくれな表情。おまけに歯並びまで悪いときてる。
ぱっと見た目にも“タレント(才能)”という言葉とは対極にあるような男だ。
自らも「昔からいつも自分に自信が持てなかった」と話し、実際、小さい頃はいじめられっ子であったという。

そんな彼がある日、イギリスの一般参加型オーディション番組、
Britain’s got talent』(※2)
に出場した。

この番組は、一芸に秀でたアマチュアの一般市民が審査員の前でそのパフォーマンスを披露し、予選から準決勝、決勝へと勝ち上がっていき最後に優勝者を一人決めるというもの。
もちろんパフォーマンスは各自それぞれ何でもありで、チームダンスだったり、動物の曲芸だったり、少年マジシャンだったりする。
とはいえ、審査員は皆辛口揃い(※3)で、気に入らなければ途中でもすぐに目の前の「X」ボタンが押され、参加者は強制退場となる。

そんなステージにただでさえ風采の上がらない外見のうえ、だらしないシャツの着こなしで現れたポッツに、審査員達も明らかにしらけた感情を隠さない。
淡々としたテンションで「今日は何をしにきたの?」と冷たく問われると、彼はか細い声で答える。
「オペラを歌いに・・」と。

そこで見ている誰もが、彼の容姿とオペラというものをどうしてもすぐには結びつけることができない。
「それじゃ、ま、どうぞ」とまったく期待していないまま進める審査員。
しかし、ひとたび音楽が流れ始めると、それまで自信なく緊張を照れ隠ししていたような彼の表情は一変し、眼に光が宿り始める。
そして彼がみせた驚愕のパフォーマンスとは・・。


(日本語字幕付き)



何度見てもすごいなーと感じてしまう。
「夢は、このために生まれてきたんだと感じられるような人生を送ること」と言っていた彼は、こうして正にその夢を自らの秘めていた才能によって叶えてしまった。
これもおそらく彼が持っているであろう、いくつになっても忘れない純粋な心によって導かれたものなのか。
人間ってこんなこともできるのかと、勇気づけられるし、また何かを考えさせられますね。




※1
セールスマンとしての営業成績はなかなか優秀なものだったとのこと。
ただし、後に出演したTVインタビューで、「今は相当忙しくなったでしょう?」という質問に対し、「確かに忙しいけどセールスマン時代よりはまし」と答えている(ノルマがきつかったんだとか・・切ないですね)。

※2
Britain’s got talent』は今年の4月からシーズン2がオンエア中。
第2のポッツのような逸材が出てくるのかちょっと注目です。

※3
チーフ審査員のSimon Cowellは特に辛口で有名な音楽プロデューサー。
やはりアメリカの有名なオーディション番組『American Idol』で、当時のジェニファー・ハドソン(後にビヨンセ主演のミュージカル映画『ドリームガールズ』でアカデミー賞助演女優賞を受賞)を「あんたはまだ力不足」と酷評したほど。


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Cosmo League 第24節

Posted on 5月 21st, 2008 by SEEBRA.
Categories: Football.

5/17(土) コスモリーグ第24節 @AR-JAS

German All Stars 6 - 1 FC NIPPON


先週の土曜日、久しぶりにサッカーに行ってきました。
仕事の都合で前半だけ、しかも本職ではない右サイドバックで出場。
結果は上記の通り、ドイツ人チームに大敗。

久しぶりのせいか、ポジションのせいか、寝不足のせいか、全然調子が上がらず。何度か右サイドを崩されてしまった。
本来こんなに大差で負ける相手ではないんだけど、また悪い癖で立ち上がりに失点してしまい、そのままズルズルといってしまいました。


それにしても、最近シンガは暑いです。ずーっと晴れの日ばっかり。
この日も日中を避けて夕方16:45からのキックオフでしたが、それでもまだ気温は34℃。
そんな中での45分ハーフはやはりかなりきついです。
(今回は半分だけだったけど)




しかも本来それだけ汗をかいた後は、その分シャワーを浴びてからのビールが旨いはずなんですが、後に仕事が控えているとそれすらもかなわず。まぁ、久しぶりに体を動かせただけでもよしとしたいけど、やっぱり負けは悔しい。
また頑張ります。



余談ですが、
今夜はいよいよチャンピオンズリーグ決勝。
Webで番組表をみるとフジで3:35から放映が入っているが、これは生中継なのだろうか? いずれにしても観るけど。
個人的にはマンUを応援。
今年のマンチェスターはリーグだけでなく、ビッグイヤーにも値するチームだ。

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