ここ、シンガポールで生活している人なら誰でも少なからず、「経済が非常に好調である」ということを肌で実感しているだろう。
マリーナ地区の大規模開発に限らず、国中が活気に溢れていることを体感する機会は枚挙にいとまがない。

そこで、3回くらいに分けて公になっているいくつかの経済指標をピックアップし、管理人が自分なりに思うことをまとめてみる。
第1回目にまずメインで取り上げる指標はやはりこれから、
『国民一人あたりGDP(国内総生産)』。
すでにニュース等で報じられている通り、2007年度における国民一人あたりGDPでシンガポールはついに日本を抜いてアジアトップとなった。
▽ニュースソース
シンガポールが日本を抜く 1人あたりGDP [NIKKEI NET]
「アジアで最も豊かな国」から転落した日本 [大前研一氏、NIKKEI BP]
◆ 国民一人あたりGDP(名目ベース)ランキング[2007,IMF]
順位 国名 数値($)
1 ルクセンブルグ 104,673
2 ノルウェー 83,922
3 カタール 72,849
4 アイスランド 63,830
5 アイルランド 59,924
・・・
11 アメリカ 45,845
12 イギリス 45,575
・・・
21 シンガポール 35,163
22 日本 34,312
日本は高度経済成長以降、長らくアジアでトップの座にあったが、とうとうシンガポールがそれを上回った。
もちろん為替の影響もあるし、元来この指標は都市型国家にとって有利なので、北海道から沖縄まで含めて勝負せざるを得ない日本とは単純に比較はできないが、とりあえず『今まで上だった順位が逆転された』、という事実は受け止めなければならない。
ちなみに、近年のGDP成長率はシンガポールが約7%、日本は約2%なのでこの差は今後も開く一方であると予想される。
日本はGDPではいまだ世界2位だが、国全体の人口も多いので一人あたりではこのようなランクとなる。
◆GDPと人口(カッコ内は順位)[2007]
国名 GDP($) 人口 人口密度(※参考)
日本 約4兆3800億(2) 約1億2700万人(10) 約336/km2(32)
シンガポール 約1600億(44) 約460万人(113) 約6450/km2(4)
GDPには国内の外国人による生産も含まれるが国民としては含まれないので、小国の都市型国家で積極的に海外のリソースを取り込む「呼び込み型経済」であるシンガポールにとって、一人あたりGDPは最も得意とする経済指標の一つだろう。
なにせ労働力人口における外国人の割合は、世界的にみてシンガポールは異常なまでに飛びぬけて高く、産業別労働人口の比率も生産性の高い3次産業へ極端なまでにシフトさせている(結果的に、ともいえるが)。
◆労働力人口における外国人の割合[2005]
国名 比率
シンガポール 27.9%
日本 1.0%
(以下参考)
韓国 1.3%
香港 6.4%
ドイツ 8.9%
フランス 6.0%
イギリス 3.8%
◆シンガポール国内の産業別労働人口比率
第1次産業 0.2%
第2次産業 23.6%
第3次産業 76.1%
とはいえ、世界地図においてシンガポールを正確に指し示せる人は少ない。なぜならシンガポールは世界地図上ではごく小さな『点』でしかないからだ(面積は香港より更に小さい)。そんな小さな国が、独立からわずか40数年で、世界経済の中でここまで存在感を発揮している事実は間違いなく興味深い事象である。
マレー人優遇政策を進めるマレーシアから追い出されるように半ば無理やり独立させられ、国土も資源もない(恐ろしいことに水すらない)。それでいて民族は多様で、加えて赤道直下(北緯1度)の熱帯気候。普通に考えれば自活していくのも精一杯といったイメージだろう。
地政学的に要衝にあったという意見もあるが、それはマレーシアもインドネシアも同じ。そんな隣国との差別化を図り、いち早く『知識集積型国家と緑豊かなガーデンシティの両立』という壮大なビジョンを打ち出し、強い志とリーダーシップによって国内外に大きな紛争もなく、短期間でここまでシンガポールを引き上げたリー・クアンユー(初代首相~在位25年。現顧問相)の手腕と功績はすさまじいものがある。管理人にとっても、世界で最も尊敬する政治家の一人だ。
ところで、前述の一人あたりGDPは基本となる「名目ベース(Nominal)」の数値であり、実質の「購買力平価ベース(PPP)」では、シンガポールは実は以前から日本を上回っており、すでにアメリカをも抜いて世界第5位となっている。
◆国民一人あたりGDP(購買力平価ベース)ランキング[2007,IMF]
順位 国名 数値($)
1 カタール 80,870
2 ルクセンブルグ 80,457
3 ノルウェー 53,037
4 ブルネイ 51,005
5 シンガポール 49,714
6 アメリカ 45,845
・・・
22 日本 33,577
ここで更にちょっと深堀りすると面白いのが、民間消費の割合。
一人あたりGDP(PPPベース)における家計消費の割合は、シンガポールはアメリカや日本と比べてまだかなり低いのである。
◆一人あたりGDPに占める一人あたり家計消費の割合
(いずれもPPPベース)[2005,世界銀行]
国名 GDP / 家計消費($) 比率
アメリカ 41,674 / 29,322 70.3%
シンガポール 41,479 / 12,636 30.4%
日本 30,290 / 15,342 50.6%
それだけお金がまだ消費ではなく投資に回っているということで、これも経済成長率を押し上げる要素となっていると想像できる。
ただし、その分国民の消費がつつましいのかというと、この国で生活していると肌感覚ではそんなことは全く感じられない。おそらく現在では、ワーキングプアなどが社会問題になりつつある日本の方が確実に悪いだろう。
以下、参考までにシンガポールにおけるその他の関連基礎データをいくつか挙げる。
◆平均賃金 S$3,773 (US$2,515)
◆週あたり実労働時間 46.5h
◆全体失業率 2.0%
[シンガポール統計局、全国賃金評議会]
次回以降は、また違ったデータからシンガポールの今後をもう少し考察してみたい。・・いつになるか分からないけど(汗
福ちゃん
数字って私は苦手意識を持っているのですが、一番説得力があるのは数字だと思っています。ブログにはキーとなる指標がおさえてあったので(出典も)、凄く助かります。ありがとうございます。
※シンガポールの一人当たりGDPが日本を抜いたというのは、帰国してから調べたり聞いたりしたところ、日経新聞の7月5日に掲載されていました。毎日新聞チェックしているのに、そのときの自分にはひっかからない情報だったということがよくわかる事象でしたが、今後は変わりそうです。
>福ちゃんさん
そうですね。説得力があるとういうか、数字があると分かりやすいですよね、とりあえず。抽象の反対というか、程度や傾向や分布を語る際にはやはりあった方がいいですよね。
ただ、こういった統計的なデータは作成者によって結構いじれてしまうことと、あとはそれを自分なりにどう解釈するかかな、と思ってます。
確かにこのエントリー、前から書こう書こうと思って寝かせていたんですが、なぜかこのタイミングでした。自分でもよく分かりません(-_⊂)