シンガポールの好況を表すいくつかの指標(4)

Posted on 8月 5th, 2008 by SEEBRA.
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ちゃちゃっと、シリーズ最終回。

シリーズ最後に取り上げるデータは、
『国民に占める資産$100万以上の家庭の割合』。

資産$1M、約¥1億強、いわゆるミリオネアと呼ばれる人たちが、
全国民の内、何%いるかという割合。

イギリスの投資銀行、Barclaysが今年5月に発表した経済成長見通しの
リポートによると、2007年度では以下のようなランキングとなっている。

◆Percentage of households with overall wealth
 in excess of US$1 million [2008,Barclays]

2007年順位 国名 割合
1  香港       26.4%
2  シンガポール  23.3%
3  スイス      22.3%
4  デンマーク   17.9%
5  イギリス     15.6%
6  アイルランド   14.8%
7  アメリカ     14.7%
8  オーストラリア 11.9%
9  イタリア     11.8%
10 フランス     11.7%
・・・
17 日本       7.3%


現時点で、シンガポールはすでに23.3%と高い数字をあげ、世界で第2位。
国民の4~5人に1人はミリオネアということになる。
しかし、同じリポートにて今から10年後、つまり2017年度の予測がなされているのだが、シンガポールはそこでは香港を逆転して世界第1位と予想されている。そしてその割合はなんと・・


40.7%。 

 リポートより一部抜粋


Barclaysの予測を整理すると、2017年のランキングは以下の通り。

◆Percentage of households with overall wealth
 in excess of US$1 million [2008,Barclays]

2017年予測順位 国名 割合
1  シンガポール 40.7%
2  香港       39.4%
3  スイス      28.1%
4  アメリカ     24.2%
5  デンマーク   24.7%
6  日本      21.3%
7  イギリス    18.9%
8  アイルランド  17.7%
9  オランダ    17.6%
10 ベルギー    17.0%

リポートの全文(PDFファイル)はこちらから。


40.7%、もはや国民の2人に1人はミリオネアとは。
もちろん、10年後の世界など誰も正確には予測できないので参考データの一つでしかないが、そんな世界が本当にありえるのだろうか・・。

おそらく、これには現国民の所得が伸びるだけでなく、海外から「すでにミリオネアの人たち」が、資産を持って更に流入してくる分もかなり含まれるのではないかと考える。
何といっても、シンガポールは香港と並んで世界的に見ても税金が低い国の一つで、所得税は最高でも21%。相続税や贈与税はなく、金融商品などから得られるキャピタル・ゲインも非課税である。
このため、華僑、印僑はもちろん、最近では韓国の富裕層からも流入が増えてきているという。当然、英語が公用語でストレスなく通じ、治安も環境もいいので、欧米の富裕層にとっても魅力的だろう。高級物件を中心に不動産価格が高騰を続けるのも、これでは納得せざるを得ないというものだ。

繁栄の父、リー・クアンユー(現顧問相)も、シンガポールの成長については先ごろまた力強い声明を出している。

▽参考記事
この先5~10年が最高の時代、リー顧問相 [AsiaX]


いずれにせよ、この国の今後の成り行きは大いに注目に値する。これからも興味深く観察していきたい。


蛇足だが、先の予測ランキングで日本も6位に入っている件について。
10年後とはいえ、現在の状況からは正直なところ「それはないだろう?」、と直感してしまう。気になったのでリポートを良く読んでみたのだが、「過去の悪い部分を出しつくし、ようやく株や土地が上昇に転じた」・・といったくらいしかポジティブなことは書いてなく、特に明確な長期の上向き要素があるとは思えなかった(まさかBarclaysが三井住友FGと提携したからといって厳しいことが書けないわけでもないと思うが)・・。

ただ、全体の推移を見ても分かるとおり、全体的に上の層は伸び続けていくということはあり得ると考えられる。あまり気分のいい言葉ではないが、流行の「格差社会」が日本だけのトレンドではないということなのだろう。

とはいえ、『経済力=幸せ』という法則もまた、決して真理ではない。
そんな時代における自分の価値観。自分にとっての幸せや目標とは何か。
今と、これから先のライフ・デザインをこの『世界』の中でどう描いていくか。
戦略的なシンガポールの発展性を確認していく中で、改めてそうしたこともしっかりと考えていかなければと思った。

(シリーズ終わり)

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シンガポールの好況を表すいくつかの指標(3)

Posted on 8月 4th, 2008 by SEEBRA.
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ささっと、シリーズ第3弾。

今回まず取り上げるのは、
『政治腐敗認識指数』。
これは政治や行政において、汚職などの腐敗がどれくらい少ないと思われるかを表す数値だ。

シンガポールは、世界的に見てもこうした腐敗が少ない国と見られている。
国際的に汚職や政治腐敗を監視するNGO、
Transparency International(TI)による2007年度の報告では、
政治・行政がクリーンな国として世界第4位にランキングされている。

◆腐敗認識指数(Corruption Perception Index) [2007,TI]

順位  国名
1  デンマーク
1  フィンランド
1  ニュージーランド
4  シンガポール
4  スウェーデン
6  アイスランド
7  オランダ
7  スイス
9  カナダ
9  ノルウェー
・・・
17 日本

全ランキング(PDFファイル)はこちらから。
(ちなみに日本以外のG8諸国ではイタリアの41位が飛びぬけて最低)

確かに、この国の政治・行政のあり方を見ていると、国会議員含め各公務員の職務に対する使命感は日本に比べ、非常に高いと感じる。
シンガポールの政治は人民行動党(PAP)による実質一党独裁体制だが、リー・クアンユーによって独立当初から進められた徹底的な汚職追放政策によって、メンタル、そしてシステムの面からも、非常に志の高い姿勢が貫かれている。

経済指標からは少し脱線するが、何といってもシンガポールには「汚職防止法」という法律と、それを専門に取り扱う「汚職査察局」という独立した機関があるのだ。これによって、シンガポールではいわゆる接待行為が全て禁止されている。その取り組みの体制も厳しく、特徴的なものとしては以下のような点がある。

・疑わしきは罰する
汚職の嫌疑を受けたもの(資産に著しい増加が見られた場合など)は当局の査察を能動的に受け、その理由を明確に説明できなかった場合には賄賂の確証がなくとも有罪となる(ちなみに、日本にも国会議員に資産公開の義務などはあるが、これは虚偽の申告をしても罰則はない)。

・賄賂提供者の逮捕義務
賄賂の提供を受けたものは、その提供者を逮捕しなければならない義務を負い、理由なく逮捕しなかった場合には自分自身も有罪となる。

・役職の高いものほど罪が重い
1975年に当時の国務大臣が収賄に関わった事件では、4年あまりの実刑判決が下された(日本のように、大臣であっても辞職して終わりということなどありえない)。

・・等々、
自らも平然と天下りしてしまう日本の会計検査院などとは大違いである。
また、それに見合った待遇というものももちろんあり、成果主義によって若くても有能な職員には役職を超えて、しかるべき公務員報酬が支払われる。逆に、成果が見劣る場合に対してももちろん厳しく、例えば中央積立基金(年金に相当)の運用担当者は、在職中の運用実績が出せなかった場合は退職金ゼロとなる。
日本の社会保険庁のように、「年金記録を5千万件失くした」などといっても何の処罰もないことは、シンガポール人には考えられないことなのだ。


また、こうした姿勢は、公的予算を使った国家プロジェクトの進行においても大いに発揮される。
例えば前回に触れた国内のIT化推進については、過去に以下のような国家プロジェクトを順次実行してきている。

・1980-1985 国家コンピューター化計画
         (The National Computerisation Plan)

・1986-1991 国家IT計画 (The National IT Plan)

・1992-1999 IT2000

・2000-2003 Infocomm 21

・2003-2006 Connected Singapore

そして現在は2015年へ向けた10ヵ年計画として、
Intelligent Nation 2015』(iN2015)
というプロジェクトが進行中だ。

また、シンガポールの良いところは、このような計画がなされた場合に、常に明確な数値目標や戦略を盛り込んだマスタープランがその都度しっかりと策定され、それが国民に開示されてちゃんと理解を得られるようなシステムになっていること。
しかも、それらプロジェクトをことごとく前倒しで完了させ、すぐにまた次のより高度な計画へとステップアップしていくさまは、ビジネスとしても学ぶべき点が非常に多い。正に「企業国家」の表れだ。
重ね重ねにはなるが、「骨太の方針」だの「5つの安心プラン」だのといった、名前も中身も具体性に欠ける計画をのん気に謳いあげる日本とのあまりの違いに嘆きたくもなる。

戦略立案自体も、産官学が垣根を超えて一体となり、国民の利益の最大化という目標に向けて、私欲を捨てて取り組んでいる様子が伺える。
例えば、iN2015のボードメンバーを見ると、ファイナンスのプロとして外資系銀行の上級幹部や、システム面ではマイクロソフトやヒューレット・パッカードの上級幹部など、民間の優秀なリソースも惜しみなく投入されている。
普通、そんなことをしたら「では、サーバーは全部Windowsで」、などといったことにならないか心配になるが、これらも先の自浄効果で回避されるのだろう。シンガポールが打ち出す、「クリーン&グリーン」の姿勢は見かけだけではないのだ。


また長くなったので今回も一旦この辺で・・。
次回、最終回(おそらく)は、
「10年後、シンガ国民の2人に1人はミリオネア?」をテーマにします。

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シンガポールの好況を表すいくつかの指標(2)

Posted on 7月 27th, 2008 by SEEBRA.
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管理人が勝手に推し進めるシリーズの続きです。


今回、まずメインで取り上げる指標は
『国際競争力ランキング』。

IMD(経営開発国際研究所)が今年5月に発表したこのランキングにおいて、シンガポールはアメリカに次ぐ第2位となっている。
このデータは毎年発表されていて、上位3カ国の顔ぶれは前年度と変わらず。ちなみに日本は今年22位、前年は24位。

◆World Competitiveness Yearbook [2008,IMD]

順位 国名
1  アメリカ
2  シンガポール
3  香港
4  スイス
5  ルクセンブルグ
6  デンマーク
7  オーストラリア
8  カナダ
9  スウェーデン
10 オランダ
・・・
22 日本

全ランキングはこちらから。


一体何を基にしてこの「国際競争力」を計っているのかというと、
GDP成長率、失業率、インターネット普及率、携帯の市内通話料、スキルのある人材の確保しやすさ、政府による規制、ベンチャーキャピタルのアベイラビリティ・・等々、計331項目にも及ぶ、なかなか妥当とも思えるデータを基に総合力がポイント化されているのだ。

▽元記事
The World’s Most Competitive Countries [BuisinessWeek]

上の記事のサブタイトルには、
「アメリカが首位を守るも、アジアの虎たちがそれを猛追」
とあるが、この「アジアの虎たち」とはもちろん日本のことではない。
特にシンガポールは記事本文中にもあるように、ランキングの作成者によると、今年度のランキングにおいて首位のアメリカにあと僅か0.7ポイント差と肉薄しており、来年度はついにこれを逆転することがほぼ確実だという。
ちなみにアメリカは今年度まで過去15年間連続でこの首位を守ってきた。


また、世界経済フォーラム(WEF)が今年から発表した
『貿易円滑化指数』(Global Enabling Trade Index)
においても、総合ランキングでシンガポールは香港に次ぐ2位となっている。
資料によるとこれは、「物品が国境を越えて目的地に自由に流通する状況を表す指数」で、(1)市場アクセス、(2)通関手続き、(3)運輸・通信インフラ、
(4)ビジネス環境、の4つの項目から総合的に判断されている。

◆Global Enabling Trade Index [2008,WEF]

総合順位 国名
1  香港
2  シンガポール
3  スウェーデン
4  ノルウェー
5  カナダ
6  デンマーク
7  フィンランド
8  ドイツ
9  スイス
10 ニュージーランド
・・・
13 日本

全ランキングはこちらから。


このあたりも、呼び込み型経済の香港、シンガポールなどは負けられないところだろう。
項目別にみると、シンガポールは「通関手続き」で1位だが、「市場アクセス」の評価が27位とずいぶん悪い。逆に香港はこの項目の1位だ。
思うにこの2カ国は、貿易といっても国内市場のパイは小さく、あくまで「流通のハブ」として機能している点が特徴で、その観点からはやはり大陸中国を背中に背負っている香港との評価の違いが如実に現れたということか。
しかし、裏を返せばそのハンディを他の要素で挽回し、総合2位に食い込むシンガポールもやはりさすがと言える。

ちなみに、割と有名なデータだがシンガポールは『港湾別コンテナ取り扱い量』において現在世界第1位である(過去にもちろん日本(神戸)が首位だった時代もあるが、のんびりしている間にシンガポール、香港、中国、韓国、台湾、全てに大きく抜かれた)。

シンガポールの貿易については、先ごろ世界貿易機構(WTO)からも非常に高い評価を受けている。

▽元記事
A successful economy, open to trade and investment [WTO]

▽参考記事
シンガポールは最も開かれた国の1つ=WTO評価 [AsiaX]


加えて、シンガポールはこうした物流だけでなく、情報の流通に関しても高い競争力を有している。
先のWEFによる、
『世界IT レポート』(The Global Information Technology Report )
によると、情報ネットワーク化の進捗度においてシンガポールは世界第5位(アジアでは最上位)の評価となっている。

◆The Networked Readiness Index 2007-2008 [WEF]

順位 国名
1  デンマーク
2  スウェーデン
3  スイス
4  アメリカ
5  シンガポール
6  フィンランド
7  オランダ
8  アイスランド
9  韓国
10 ノルウェー
・・・
19 日本

全ランキングはこちらから。

▽元記事
世界IT レポートでシンガポールと韓国がアジアの上位に [WEF]


このようなIT(ICT)の分野に関しては管理人自身も特に関心が高いのだが、ここでも日本との違いを痛感させるいくつかの事象がある。
少し長くなってしまったのでそれらについてはまた次回に・・。


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